入社時の合意で大きく別れます。採用当初に「リモートのみ」といった仕事の環境、勤務場所を限定している場合には、業務上の必要性があり、かつ短期間的に限定されると考えられています。
一方、雇用契約及び就業規則等において、勤務場所限定等の約束がないと判断される場合には、出社を命じる理由があり、権利濫用に当たるような恣意がなければ、出社を命じる事は可能と考えます。
1. 出社命令の根拠とリスク
- 雇用契約で定められた就業場所は、雇用契約時に書面で明示する必要がある
- 労働者は契約上の就業場所で勤務する義務があるため、会社は原則として出社を命じる権利を保有
- しかし、敢えてリモートワーク限定、あるいは勤務地の限定としていれば、労働者は出社に応じる契約となっておらず、業務上の必要性に加え、短期間に限られるとの判断基準になる
2. 就業場所の変更と権利濫用
- 会社は一般的な正社員に対しては、就業規則に基づいて、労働者の就業場所を変更することが可能
- 人事権を保有する代わりに、解雇が制限されている
- しかし、業務上の必要性がない場合や不当な動機に基づく場合、変更は無効となる可能性がある
3. ケースの適用
- 出社命令の適切性は、雇用契約や就業規則、採用時の合意などに基づき判断
- 出社命令の背景や労働者の就業状況を詳細に検討する必要
参考裁判例
1. 裁判例の紹介: (東京地判令4.11.16)
- IT ソフト開発やSES(システムエンジニアリングサービス)などの事業を行う会社と雇用契約を締結し、主に自宅で業務(リモートワーク)を行っていた社員が、社内SNS を用いて同僚に対して会社代表取締役を揶揄するメッセージを送付していたこと等を理由にリモートワークを禁止され、出社を命じられたが(本件出社命令)、出社を拒否した事案。
- 会社は当該社員を降給し、さらに、退職としたところ、XがYに対して、出社命令は無効であるとして、による賃金の差額および退職扱い後の賃金を支払いが求めた。
- リモートワークを行っていた社員が、社内SNSで不適切なメッセージを送り、出社を命じられるが拒否した事例。
- 労働契約上、契約書では「本社事務所」とされていたが、実際には社員が主に自宅で業務を行っていた。
- 裁判所は、リモートワークが基本であり、出社は業務上の必要がある場合に限られると判断。
2. 出社命令の業務上の必要性
- 社員が業務に関係ないやり取りを行っていたとしても、それが業務上の支障を生じさせていなければ出社を命じる必要性はないと判断。
3. 出社命令の無効性
- 社員と会社代表者のやり取りの後に出された出社命令は、業務上の必要性がないとして無効と判断
4. 出社命令の有効性の判断基準
- 出社命令は業務上の必要性に基づく必要があり、無関係なやり取りに対して出社を命じることは業務上の必要性がないと判示。
- 出社命令が出された背景や状況によっては、命令が無効になる可能性があるということ
5. 本ケースの教訓
- 労働条件通知書に記載された就業場所にもかかわらず、実際の就労状況や採用の経緯を考慮する必要があります。
- 出社命令を出す際には、業務上の必要性を明確にし、労働者に対する不利益も考慮することが重要です。
まとめ
重要なポイントは、
- 1. 雇用契約や就業規則における勤務場所の限定性
- 2. 業務上の必要性
判断の入口が①であり、これによって原則と例外が逆転するようなイメージ判断になります。
つまり、リモートワークの限定がなければ、原則リモートワーク解消は不当な動機さえなければ可能ですが、リモートワーク限定契約と解釈される状況であれば、業務上の必要性が必要となり、常時出社させることは本人同意が必要となるという結論になります。