当社が経営する飲食店の1店舗で、弊社従業員がお客様のポイントを自分のポイントカードに付与して不正利用していることが発覚しました。提携しているポイントカードの会社からの指摘で判明したのですが、対象者の名前まで指摘を受けており、当社の従業員が不正利用していることは間違いありません。この場合の当社の対応について、どの程度がふさわしいのか、ご助言をお願いいたします。
結論から申し上げますと、普通解雇も理論的に十分あり得る対応が可能かと思います。
まず顧客のポイントは、顧客の財産であり、御社の従業員という立場を利用して不正に利用していることから、明らかに窃盗行為(刑法235条)、あるいは詐欺(刑法246条)に該当します。
さらに御社所有の金品等であればまだしも、顧客の財産を継続的かつ複数回に渡り不正利用していることから客観的に見ても悪質極まりないと判断されると思います。
東武トラベル事件(東京地判平成15年12月22日)という裁判例では、従業員が使用済みの旅行券を百数十枚倉庫から盗み、旅行券を改ざんして、自らの旅行代金に充てたり、架空取引によって取得した乗車券を換金するなどして合計102万円の金銭を不正に取得していた従業員を懲戒解雇した事例があります。
本来は退職金規程により510万円を支給されるところ、懲戒解雇されて退職金が不支給となり、解雇の有効性と退職金不支給の正当性が争われたところ、不正行為の態様や事後の対応、企業経営に与える影響などを考慮して懲戒解雇は有効、さらに退職金不支給も正当であると判示しました。
懲戒解雇は普通解雇よりも容認されにくく、退職金不支給については、より容認されることがない裁判所の常識を覆した判例ですので、犯罪行為に対しては非常に厳しく対応できるということになります。ましてや、ご相談のように、顧客にこの事実が伝わることがあれば大きなダメージを負うことは容易に想像できますので、本件では解雇しても有効と判断される可能性が高いとは思います。
その上で、現実的な解雇後のトラブルリスクも避けたいとの方針であれば、合意退職にて終わらせることも一策です。
当所顧問先でも顧客所有物の窃盗のご相談をお受けすることはままございます。顧問先企業様は「トラブルを避けたい、なので合意退職で構わないが社内や顧客に合意退職したでは済まないのでどうにかならないか」とご要望をいただくことがありますす。
この場合、本人との退職合意書では、合意退職をしておきながら、関係者の発表は、懲戒解雇にしたとして発表します。そうすればメンツを保ちつつ、雇用契約解消リスクも回避できることになります。
社内外発表に関し後々のクレームリスクも考え、退職交渉時にそのように発表することの同意を取り、合意書にも記載しておくと万全です。
そして、方針をご検討いただくと共に、ポイントカード会社とも情報連携と協議は欠かさない方が良いかと思います。利用者個々人が被害者となっているので、SNS等での炎上リスクも存在しております。
マニュアル等が存在するであろうポイントカード会社と炎上リスクなどを協議しながら進めていかれる体制が必要かと思います。
※ この回答は顧問先様のご相談と当所の回答内容を脚色して、公開しているものです。顧問先様の前提を把握した上での回答ですので、どの企業様にも当てはまるものではないことをご了承ください。