詐欺罪にも該当するが、社員はあまり罪の意識なくやっている。
会社に対する詐欺行為であり、重大な企業秩序違反行為です。したがって、重い処分、厳しい対応を行っても、その有効性は十分に認められる可能性が高いです。
ほとんどの会社で、会社から自宅までの通勤費に応じて、通勤手当を支給されているかと思います。ただ、常に本当の現住居地なのかどうかを調べるためには、膨大な手間がかかり、一般的には、社員の申告を信じる他ありませんよね。
これをいいことに、会社近辺に引っ越ししたにもかかわらず、会社へ申告をせず、旧住所地に応じた通勤手当を受給し続けていることがあります。
社員からすれば、比較的簡単にできる行為であり、気軽な気持ちでやってしまう場合もあるようですが、会社からすれば、信用している社員からの『詐欺行為』そのものであり、会社に対する偽りの報告あるいは届出、会社を欺いて業務の損害を与える行為であり、懲戒解雇も十分に考えられます。
しかし、こんな事案があります。
通勤経路の変更後、約4年8か月に渡って従前の定期代を不正に受給していた従業員を懲戒解雇した事案(東京地裁・平18.2.7)では、長期間に渡って不正受給し続けたことは、就業規則の「故意または重大なる過失により会社に損害を与えた場合」に該当し、その後の対応も不誠実であり、軽視することはできないとしながらも、最終的には、懲戒解雇処分は企業秩序維持のための処分としては重すぎるとして、懲戒解雇は無効となりました。労働者が『勝った』わけですね。
理由は、動機自体が悪質とは言えないこと、不正受給額は34万7780円と会社にとってはそこまで大きな金額でないこと、懲戒処分が初めてであったこととされています。
要は、『確かに詐欺行為だけど、誰もがやりそうなことで「見せしめの解雇」は重すぎる』ということだと思います。
実務における結論は
実務では、社員が罪の重さを理解せずにやってしまうことも多いのが現実です。
その不正の程度にもよりますが、初回は、けん責、訓戒~減給等、比較的軽度の懲戒処分で対応し、それでも再度、不正受給が発覚した場合には、解雇も含む厳しい対応を検討するといった方が理論はもとより、組織からも支持や正当性が得られるものと考えられます。