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労働時間を正確に把握することが前提となる。

特定社会保険労務士 脇 淳一そもそも会社は、社員の残業時間を適切の把握しなければならないのでしょうか?

労働基準法108条において、会社は、「賃金台帳を作りなさい」との規定があり、同法施行規則54条5号及び6号において、「労働時間数、延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数を賃金台帳に正確に記入しなさい」となっており、労働時間を把握する必要があるということになります。この規程には、罰則(30万円以下の罰金)もありますから、残業時間を把握しないと法律違反ということになります。

仮に、御社が労働時間の記録を何も取っていなかったとします。ある社員は、これに不安を感じて、毎日、出社時間と退社時間のメモを取り、さらにパソコンのログデータまで持っていたとします。社員がこれらの証拠を拡大解釈して、かなり過剰な金額と思われる残業代を請求してきた場合に会社はなんと反論すればよいのでしょうか。

会社は、何か証拠をもって反論できないことに加え、司法の場で争われれば、裁判官が抱く会社への心証は、相当悪いことは、目に見えていますから、「負け戦」ということになります。適正な労働時間の把握し、社員の健康問題も含めた会社のリスクヘッジをすることと言えます。

[対策1] 労働時間を正確に把握する目的で、残業を申請制度にする

会社は、社員へ残業を命じるか、社員が残業を申請して会社が承認することによって、残業が発生し残業代を支払う義務が生じます。まれに「残業して残業代を稼ぐ!」と言う人を見かけますが、残業は会社の命令あるいは承認がないとできませんので、考え方として間違っています。しかし、そんなことをいちいちやっていられないので、暗黙的に残業している、あるいはさせているのが実情かと思います。ここをはっきりさせるのです。

例えば、終業時刻前にPC等で、上司に「今日はこういう仕事があるので、これだけ残業させてください。」と申請を上げてもらい、これに対し、上司が必要だと思われる時間だけ、残業を認めて、無駄な残業はさせずに帰らせれば、無駄な残業は削減することができます。

メリット

  • 申請がない時間は、残業ではないことが明確になる。(もちろん程度にもよる)
  • 社員が段取りを考えて仕事をするようになる。
  • 上司が、部下の業務内容を確認できる。

デメリット

  • 申請を行える環境では、できない。
  • 承認する上司の手間がかかる。
  • 拘束時間の乖離があれば申請がなくても、会社の管理責任を問われ残業代請求リスクは残る。

特にホワイトカラーの業種であれば、残業の申請制度の導入によって、実労働時間の把握を可能になると考えます。また就業規則に承認のない時間や自身の判断だけで行った時間は、残業して認めず賃金も支払わない旨をしっかり規定しておきましょう。

[対策2] 変形労働時間制を導入する

変形労働時間制とは、年単位、月単位あるいは週単位で、平均をして週40時間以内にすることによって、特定の日または週に、1日8時間や一週40時間を超えて労働時間や労働日を設定できる制度です。

一年単位で設定する場合は、最長一年ごとに労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。

メリット

  • 繁忙期と閑散期がある場合は、有効性が高い。
  • 労働時間を柔軟に設定することができる。

デメリット

  • 労働時間の総合時間数が多ければ、解決策とはならない。
  • 繁忙期と閑散期がない場合は、メリットがない。
  • 労務管理が複雑化して、手間がかかる。

季節的な影響を受ける仕事でしか、抜本的な解決にはつながらず、メリットを受ける会社は業態などによって、かなり限定されてしまうと考えます。

[対策3] 事業場外のみなし労働時間を導入する

営業で外回りしている社員などの労働時間は、正確に把握することは難しいという実情から、一定の時間を労働したものみなす『事業場外のみなし労働時間制』という制度が存在し、所定労働時間したものとみなす場合と、通常必要とされる時間をみなす場合があります。

例えば、所定労働時間みなしの場合、所定労働時間が1日8時間の会社で、ある営業社員が12時間かけて、営業をしてきた場合でも、8時間とみなすことになり、残業代は発生しないということになります。

メリット

  • 外回りが多い社員に対しては、過剰な残業解消には有効性が高い。

デメリット

  • 「労働時間を算定し難い状態」でないと対象とはならず、外回りから帰社した後に行う事務作業などは、原則的に残業時間となる。
  • 上司に同行して営業する場合は、上司が労働時間を把握できる状況のため、みなしの対象とはならず、むしろリスクが増大する。

この制度は、多くの会社で拡大解釈されており、『営業の社員は、残業代は払わなくてよい』と思われている経営者様も多いです。そして、営業している社員のその多くは、外回り営業を行った後、一旦帰社して、明日の準備や見積書や請求書作成等の事務作業を行うはずです。

そうすると、この事務作業等の時間は、社内で仕事を行うこととなり、「労働時間を算定し難い」とは言えず、当該制度の対象とはならず、残業代を請求されるリスクが残ってしまいます。この勘違いで、痛い目を見た経営者様を多くみてきました。したがって一般的には、やはり定額時間外手当等の他の制度と併用して、対応することにならざるを得ないでしょう。

※ 業務委託契約や請負契約にする?

一般的に、雇用契約ではなく本人と合意の上で業務委託契約や請負契約にしてしまうという方法が解消しようとする場合があります。しかし、そのほとんどが違法で最もリスクが高く、実質的には雇用関係であればむしろリスクが増大することになります。

業務委託契約は民法643条、656条により一事業主として特定の仕事を処理することを目的として行われる契約です。労務の提供による対価として報酬が支払われるのではありません。社会保険労務士との顧問契約などもこの範疇に入ります。そして、請負契約とは一つの仕事を完成させることを目的とし、その結果に対して報酬が支払われる契約です。

  • 指揮命令があるか?
  • 自時間の拘束性があるか?
  • 業務の裁量性はあるか?

といった点が大きな判断材料になります。

メリット

  • 労働基準法など、雇用関係に関する法令等からの制限がなくなる。
  • 社会保険、労災保険などに加入させる必要がない。

デメリット

  • 「いつまでに、こういった仕事を、このようにやりなさい」といった仕事を遂行する方法、時間などの指揮命令が、ほぼ一切できない。
  • 明確な線引きができていないと、実質的に雇用契約であると主張されるリスクがある。

リスクの高い対策方法であり、そのほとんどが違法なものであると考えます。

業務委託(あるいは請負契約)か、雇用契約かは、トラブルになった際には、最終的に裁判所が決定することなので、断定できることではありませんが、業務の時間が決まっていたり、他の社員と一緒に仕事をしていたり、会社の所有物を使って仕事をしていたりすれば、雇用契約と判断される可能性は高くなります。雇用契約と判断されれば、サービス残業の問題、社会保険や雇用保険の加入の問題が、一気に発生しますから、多大なコストが覚悟しなくてはなりません。実態にもよりますが、無理矢理に都合よく、業務委託契約、請負契約などにしないほうがよいでしょう。

よくあるケースとしては、『業務委託契約していた者が、仕事中にケガをして、「実質的には労働者であるから」と、労災の申請をしようとしたところ、会社に「社員でないと申請はできない」と言われ、困り果てて合同労組(ユニオン)に相談して、労災問題だけでなく、残業代まで請求されたなんてことは、結構よくある話です。

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