最初は是正勧告や指導票による改善指導が行われる。
理屈の世界では、労働基準法は罰則のある法律であり、違反事項によっては、会社は送検され、罰則が適用されることになります。 現実にこの通りにやれば日本の経営者のほとんどが送検されてしまうことになると思われます。決して違反があるのが当たり前であるというわけではありませんが、特に中小企業が労働基準法を遵守することはそれだけ大変な事であるということです。
労働基準監督署の調査により違反の事実があった場合でも、いきなり「違反がありましたので直ちに送検します。」とはならずに、まずは労働基準監督署から「是正勧告書」あるいは「指導票」によって、いわゆる警告をされることになります。
そして理屈の上では、これらの是正指導に従わない場合は、各労働基準法違反によって、会社が送検され、罰則が適用される可能性が出てくることになります。労働基準法は確かに守りにくい法律でありますが、時代は変わり、現在では「守らないと、経営者が相当痛い目に会う法律」に変化していることは事実です。
通常の指導内容の場合には、いきなり送検されることは通常はない。
念頭に置きたいのが、そもそも是正勧告は、行政指導であり強制力はなく、「是正勧告や指導票に従わないことを理由として送検されることはない」ということです。これは過去の判例でも明確されていることです。(札幌東労働基準監督官事件H2.11.6) また、労働法関係諸法令の全てに罰則が規定されているわけでありません。「~しなければならない」と規定しつつも、実は罰則がない条文もたくさんあるのです。
刑事罰がない法律ならば守らなくてもいいというわけではありませんし、特に「社員の健康と安全」を脅かすような労働環境は、絶対にあってはならないと考えていますが、もし指摘された問題が、事業の継続に多大な影響を及ぼす内容であれば、やはり優先順位を決めて対応していく必要があると考えています。
労働基準監督署が送検した件数を見ても、賃金の不払い(24条違反)が毎年500件ほどあるにもかかわらず、労働基準監督署の調査において、最も問題になりやすい「残業代(割増賃金)の未払い」については、毎年10~50件程度で推移しています。およそ10分の1です。だから「怖くない」というわけではありませんが、これもまた現実だということを知っておく必要があります。
『事実を隠ぺい』や『虚偽の報告』は絶対にやってはいけない。
本来は誠実に対応さえすれば、大きな問題になることはなかった事案でも、事実を隠ぺいしたり、虚偽の報告を行ったりして、これが発覚した場合は、「かなり悪質な場合」と判断されても仕方ありません。
数少ないサービス残業(割増賃金の未払い)の送検事例でも、やはり事実の隠ぺいや虚偽の報告が占めている割合は大きいようです。 特にやってしまいがちなのが、「タイムカードや日報の改ざん」です。サービス残業を指摘されて、遡って残業代を支払うよう是正勧告がなされたが、まともに払えないあるいは払いたくない場合に、タイムカードを改ざんして少ない残業時間に見せかけて残業代を支払ったことにするといったことです。
当事務所の経験ですが、タイムカードを改ざんして労働基準監督へ報告した後にどうにもならなくなってご相談にいらっしゃる会社様も存在します。ある会社の社長は「どうしようもなかったので、やってしまった。」とのことでしたが、当事務所はまず非常にリスキーだということを説明いたしました。そして今後は虚偽報告を行わないことをお約束頂いた上で、担当官に事実を正直に伝え最終的には何とか無事解決しました。
この時は担当の労働基準監督官と会って、社長から事実を正直に話してもらい正しいタイムカードを提出しました。労働基準監督官は「ああ、やっぱりそうですか。なんとなくですが分かっていました。でも正直におっしゃっていただいて良かったです。こちらもそれなりの準備をしていましたから。」と言われたことを覚えています。ということは、もし黙っていたら逮捕や送検される可能性もあったわけですね。
事実を偽ったり虚偽報告を行ったりすることは、タブーであり絶対にするべきではありません。事実を報告し、真摯に改善内容を検討して是正を図ることになります。